2025年

《みんけん館掲示板》

◎1月の行事
1月 2日(木):鍬入れ(民権林園)
1月 4日(土):仕事始め
1月11日(土):板倉秀峰忌
1月24日(金):幸徳秋水忌

◎みんけん林園 Self Sown Seed System, Experimental Farm
△収穫:里芋
△植付:馬鈴薯
△野鳥:マガモ、コガモ、ダイサギ、アオジ、メジロ

◎異常気象・災害・感染症
▼青森県弘前市で記録的大雪、最大積雪114cm。
▼銚子市で鳥インフルエンザ殺処分41万羽。全国で700万羽超。
▼ロサンゼルスで強風による広域火災、1万棟超の家屋焼失、延焼。

◎みんけん館寄贈寄託資料・連絡通信コーナー
□書籍『最新・秩父事件-生きる自由を求めて』(秩父事件研究顕彰協議会編2024年10月31日)
□会報『秩父№223』(秩父事件研究顕彰協議会2024年11月)※門平惣平の墓碑記述。
□通信(デジタル版)『全国みんけん連ニュース№11』(全国自由民権研究顕彰連絡協議会2024年12月1日)
□新書『早稲田大学の学祖 小野梓』(早稲田大学出版部2024年12月2日)※小野梓(おの・あずさ)の房総遊説記述。
□チラシ「企画展 わたしのまちの自由民権」(高知市立自由民権記念館2025年1月25日~6月1日)※子供は無料。



収蔵資料解説「漢詩と民権運動」

謹賀新年 今年も「漢詩と民権運動」(杜甫・兆民・秋水)のテーマを書き続けます。正月は引き続き、中江兆民が酒席で吟詠したという七言律詩「蜀相(しょくしょう)」を鑑賞しましょう。

上掲の原著『兆民先生』(「第六章人物」)に、「蜀相」の第七句・第八句(尾聯)が引用されています。しかしながら引用された詩句には誤植又は誤認が有ります(「涙沾襟」)。この誤りが120年間も訂正されることなく放置されて来ました。

杜甫研究者の編著から正しい詩句(「涙滿襟」)を引用しましょう。

杜甫作「蜀相」 ※蜀相は「三国志」の軍師、諸葛孔明

    一二三四五六七
第一句 丞相祠堂何處尋
    ○◎○○○●韻
第二句 錦官城外柏森森
    ●○○●●○韻
第三句 映堦碧草自春色
    ●○●●●○●
第四句 隔葉黄鸝空好音
    ●●○○◎●韻
第五句 三顧頻繁天下計
    ◎●○○○●●
第六句 兩朝開濟老臣心
    ●○○●●○韻
第七句 出師未捷身先死
    ●○●●○◎●
第八句 長使英雄涙
滿襟  ※沾→滿
    ●●○○●●韻
(鈴木虎雄譯解『杜少陵詩集第二巻』国民文庫刊行会1928年、鈴木虎雄・黒川洋一訳注『杜詩第四冊』岩波文庫1965年、森槐南著『杜詩講義1』平凡社東洋文庫1993年、下貞雅弘・松原朗編『杜甫全詩訳注(二)』講談社学術文庫2016年等)

※760年成都での作、杜甫49歳(上掲『杜甫全詩訳注(四)』年表)。記号の〇は平声、●は仄声、◎は平仄両用。第一句の二字目「相」が両用であるが、第八句の二字目「使」が仄声なので「仄起」の七言律詩。韻は下平(かひょう)十二侵(尋・森・音・心・襟)。「二四不同(にしふどう)」、「二六対(にろくつい)」、「下三連(しもさんれん)不可」、「四字目弧平(よじめこひょう)不可」の基本原則が順守されている。「蜀相」の平仄については、森泰二郎(槐南)『作詩法講話』(文會堂書店1911年)の「第一章平仄の原理」に詳述されているので参照されたい。
※中国の清朝時代に刊行された『杜工部集』、『杜詩詳註』、『唐宋詩醇』の「蜀相」は「涙
滿襟」という詩句であった。江戸時代に日本で刊行された『杜詩偶評』の「蜀相」も同様で、「涙襟(なみだにえりをうるおす)」というような詩句は見当たらない。今までの幸徳秋水著『兆民先生』(原著・岩波文庫旧編・幸徳秋水全集第八巻・近代日本思想大系13幸徳秋水集、岩波文庫新編等)に引用された「涙襟」は、誤植又は誤認又は誤記と結論付けることができると思う。

訓読
 丞相(じょうしょう)の祠堂(しどう)何(いず)れの処(ところ)にか尋(たず)ねん
 錦官(きんかん)城外(じょうがい)柏(はく)森々(しんしん)たり
 階(きざはし)を映(おお)う碧草(へきそう)は自(おのずか)ら春色(しゅんしょく)
 葉(は)を隔(へだ)てる黄鸝(こうり)は空(むな)しく好音(こういん)
 三顧(さんこ)頻繁(ひんぱん)なり天下(てんか)の計(けい)
 両朝(りょうちょう)開済(かいせい)す老臣(ろうしん)の心(こころ)
 師(し)を出(い)だして未(いま)だ捷(か)たざるに身(み)は先(ま)ず死(し)し
 長(とこし)えに英雄(えいゆう)をして涙(なみだ)襟(きん)に(み)たしむ
(上掲『杜甫全詩訳注(二)』講談社学術文庫2016年参照)

※第一句の「丞相」は諸葛亮(孔明)、第二句の「錦官城」は成都(せいと)の西部。第四句の「黄鸝」はウグイス。第五句の「三顧」は劉備玄徳の三顧の礼、第六句の「両朝」は蜀の劉備・劉禅の父子二代で、「開済」は諸葛亮が蜀の創業を援け国難を救ったこと。第八句の「英雄」は後世の英雄達を指す。
※七言律詩なので第三句と第四句(頷聯)は対句(ついく)。文法(映階・隔葉)、色彩(碧・黄)、四季(春色・好音)が対応している。第五句と第六句(頸聯)も対句である。数量(三・両)、治世(天下・老臣)、軍略(計・心)が対応している。



《みんけん館掲示板》

◎2月の行事
2月 1日(土):ズーム研究会(千葉県内自治体史)
2月14日(金):服部耕雨忌(千葉県旭市の民権家俳人)
2月18日(火):館長通院(鴨川市内総合病院)

◎みんけん林園 Self Sown Seed System, Experimental Farm
△収穫:柚子、菜花、小松菜、蕗の薹
△植付:馬鈴薯
△野鳥:マガモ、コガモ、ダイサギ、アオジ、メジロ

◎異常気象・災害・感染症
▼銚子半島周辺で鳥インフルエンザ殺処分250万羽、全国で700万羽超殺処分、感染拡大。
▼青森県で大雪、酸ヶ湯で積雪500cm超。

◎みんけん館寄贈寄託資料・連絡通信コーナー
□冊子『金目からオレゴンへ~世界へと羽ばたいた民権派青年、猪俣弥八とその生涯』(猪俣弥八研究会編2024年11月15日)※猪俣は神奈川県平塚市金目(かなめ)出身。
□会誌『千葉史学第85号』(千葉歴史学会2024年11月30日)
□通信『NPОフォーラム・だより№114』(安房文化遺産フォーラム2025年1月1日)
□チラシ「企画展 わたしのまちの自由民権」(高知市立自由民権記念館2025年1月25日~6月1日)※子供は無料。
□会報『秩父№224』(秩父事件研究顕彰協議会2025年1月)※坂本宗作墓碑の写真と解説。
□文具「民権家桜井静(さくらい・しずか)ゆかりの硯箱」(関係者御子孫の寄贈2025年2月)。※吉川静(新郎)と桜井千可子(新婦)が結婚した時の引き出物、保証書付き。



収蔵資料解説「漢詩と民権運動」

1月は、友人、知人、リピーター各位から懇篤なる年賀状を頂戴いたしました。差支えの無い範囲で賀詞を抜粋して紹介させて頂きますので、御高覧賜れば幸甚です。順不同、※は館長の注記です。

〇体調はいかがですか。「出獄詩」は声を出して読んだらどうなるのでしょうか。
(千葉県、女性) ※「出獄詩」は成島柳北の七言絶句。
〇こちらも老人世帯、出来る範囲でそれなりに頑張っています。不安を抱えつつ。
(東京都、女性)
〇初孫が誕生し、にぎやかなお正月を過ごしています。
(千葉県、女性)
〇「自由民権150年」も始まっていますが、日本の「民主主義」の歴史をどう叙述するのか考えております。
(兵庫県、女性)
〇ウクライナ、ガザに平和を。メガソーラー建設計画を何とか止(と)めたいとガンバってます。
(千葉県、女性)
〇先生が杜甫、良いですね。俳句は底知れず深くて、私は新古今を1年かかって独習しました。
(千葉県、女性)
〇日本の食料自給率は10%前後。農業こそ命を守り環境を守り地域と国土を守る公共事業、危機を自覚し「市民皆農」のあり方を模索したい。
(千葉県、男性)
〇皆々様にとって良い年であることをお祈りいたします。来年から賀状、失礼させて頂きます。
(長野県、男性)※90歳代の男性。
〇歴史の勉強で課題がたくさんあって、一日々々少しずつやっております。
(福島県、男性)
〇80年前、敗戦。戦争ばかりしてきた近代日本。裸電球を覆っていた風呂敷が取れるとパッと明るく!4歳の平和体験。
(埼玉県、男性)
〇「闇バイト」に走る若者を見ると、上の世代として何とかできないのかという気持になります。
(東京都、男性)
〇私は今年も家事見習いです。案外忙しいですね。
(千葉県、男性)
〇気候変動ただならぬ中ですが、ご健康のほど、祈りあげます。
(東京都、男性)
〇大学での授業実践を報告しました。現役でいる限り実践報告を続けようと思っています。
(千葉県、男性)
〇鴨川を舞台とした漫画を二作ご紹介します。「しーちゃん」、「大海に響くコール」、是非ご一読下さい。
(千葉県、男性) ※「鴨川」は千葉県鴨川市。
〇お元気ですか。40年勤めた新聞社を退職致しました。「また元の子どもに戻るお正月」。
(神奈川県、男性)

(以下続く)



《みんけん館掲示板》

◎3月の行事
3月 2日(日):予約客様来館
3月11日(火):館長通院(眼科)
3月20日(木):春分の日(墓参)

◎みんけん林園 Self Sown Seed System, Experimental Farm
△収穫:菜花、小松菜、甘夏
△植付:空豆(開花)、馬鈴薯(発芽)、里芋(植替え)
△野鳥:メジロ、ウグイス

◎異常気象・災害・感染症
▼大船渡市で広域山林火災
▼岡山県、愛媛県で広域山林火災

◎みんけん館寄贈寄託資料・連絡通信コーナー
□文具「民権家桜井静(さくらい・しずか)ゆかりの硯箱」(関係者御子孫の寄贈2025年2月)。※吉川静(新郎)と桜井千可子(新婦)が結婚した時の引き出物、保証書付き。
□会報『秩父№225』(秩父事件研究顕彰協議会2025年3月)※「大野国蔵の墓碑」の写真と解説。



収蔵資料解説「漢詩と民権運動」

上掲『兆民先生』には、貧窮に喘(あえ)いだ杜甫の生涯と中江兆民の人生を比較した章が有ります(「第四章議員と商人」、「第六章人物」)。

3月からは、幸徳秋水が取り上げた杜甫の貧窮詩の代表作「七歌」を、7回連続で鑑賞しましょう。上掲『兆民先生』第四章には、「文人詩家、唯(た)だ杜甫のみ真に困窮せり、彼(かの)七歌(しちか)の如き」と記述されています。

乾元中(けんげんちゅう)、同谷県(どうこくけん)に寓居(ぐうきょ)して作れる歌(うた)七首(しちしゅ)、759年作。【作品番号0364】
※詩型が非定型の古詩なので原詩と平仄は省略。

書き下し文
客(かく)有り客(かく)有り字(あざな)は子美(しび)
白頭(はくとう)の乱髪垂(た)れて耳を過ぐ
歳ゞ(としどし)橡栗(しょうりつ)を拾いて狙公(そこう)に随う
天は寒く日は暮(く)る山谷(さんこく)の裏(うち)
中原(ちゅうげん)書(しょ)無く帰ること得ず
手脚(しゅきゃく)は凍皴(とうしゅん)し皮肉は死す
嗚呼(ああ)一歌(いつか)す歌(うた)已に哀し
悲風我が為(ため)に天より来たる
(『杜詩第三冊』岩波文庫1965年、『杜甫全詩訳注二』講談社学術文庫2016年参照)
※「子美」は杜甫自身のこと、「狙公」は猿を飼う人、「中原」は故郷の洛陽一帯を指す。

現代語訳
旅人よ、旅人よ、その字(あざな)は子美(しび)という。
白髪(しらが)頭から乱れた髪が耳の下まで垂(た)れ下がっている。
食料のドングリを拾うために、いつも猿を飼う人について回る。
気候は寒さを増し、山中(さんちゅう)の谷間では日も暮れた。
故郷の中原(ちゅうげん)から一通の便りも届かないので、帰ることができない。
手足はあかぎれだらけで皮膚も体も感覚が無い。
ああ、一たび歌い起こせば歌はすでに悲しみを帯びている。
風が私の悲しみを募(つの)らせるかのように天から吹いて来る。
(上掲『杜詩第三冊』、『杜甫全詩訳注二』参照)

杜甫は770年に59歳で客死(病死)するまで、家族と共に貧乏な旅行を続け、1400余の漢詩を残しました。生涯の最後尾は「鶉衣(じゅんい)寸寸(すんすん)に針(はり)あり」(破れた衣服は針と糸で何度も繕っている)と筆記しています【作品番号1457】。(『杜甫全詩訳注四』講談社学術文庫2016年)

(以下続く)