2023年後半(7月~12月)

《みんけん館掲示板》

◎7月の行事
7月11日(火):資料調査(県内)
7月14日(金):第6回新型コロナワクチン接種(館長・理事長)
7月30日(日);自治体史研究会例会(県内)
        :「みんけん館通信第21号」印刷作業


◎みんけん林園 Self Sown Seed System, Experimental Farm
△収穫:青紫蘇(並作)、オクラ(豊作)、茄子(並作)、生姜(並作)
△植付:薩摩芋(苗)、胡瓜(苗)、ミニトマト(苗)、唐辛子(苗)
△花々:柘榴の花(朱)、クローバー(白)、薔薇ミニエデン(白・桃)、木槿(白・薄紫)、夾竹桃(赤)、枝豆の花(白)、胡瓜の花(黄)、コスモス(白・赤紫・桃)、茄子の花(紫)、オクラの花(白)

◎異常気象・災害・感染症
▼九州地方、中国地方で洪水被害。
▼北陸地方、東北北部で大雨洪水被害。
▼韓国で大雨・洪水・土砂崩れ。
▼欧州で熱波(イギリス・ポルトガル・イタリア等)、最高気温47度。

◎みんけん館寄贈寄託資料・連絡通信コーナー
□会誌『千葉史学第82号』(千葉歴史学会2023年5月21日)
□冊子『要覧』(高知市立自由民権記念館2023年6月)
□冊子『2023年第58回明治古典会 七夕古書大入札会』(日本の古本屋2023年7月1日)
□書籍『考える日本史授業5』(地歴社2023年7月10日)
□冊子『思文閣古書資料目録第278号』(思文閣出版古書部2023年7月)
□チラシ「企画展 町田のおカイコさん」(町田市立自由民権資料館2023年7月22日~9月3日)



特別企画「自由民権と幕末の獄中詩」解説

3月の中旬に「帯状疱疹」を発症して以来、市内の病院に通院しています。神経痛は中々治癒しません。

7月8日の『千葉日報』の記事に「県内の公立幼稚園・保育園や小中高校で、新型コロナの6月の感染者数が約5600人となり、4月に比べて約6・5倍に増えた」と報道されました。香取地区や君津地区で感染が急拡大しているようで、第9波の到来かもしれません。

昨年から板垣退助(旧土佐藩士)、中島信行(旧脱藩土佐藩士)、杉田定一(福井県屈指の豪農)等の自由党々員の漢詩を検討して来ました。7月は、立憲改進党々員であった成島柳北(旧奥儒者で将軍侍講)の獄中詩を鑑賞しましょう。

成島柳北「明治九年二月下獄日天大雪」1876(明治9)年2月作
 天無楮墨天無舌
 ○○●●○○●
 人代天言代天筆
 ○●○○●○●
 吾下獄時天為泣
 ○●●○○◎●
 萬行涙化満城雪
 ●◎●●●○●
(前掲『明治回天集』下巻)

※記号の◯は平声、●は仄声、◎は両用。平起の七言絶句、押韻は珍しく仄韻で、入聲九屑(舌・雪)。平仄の「二四不同」は規則通り、「二六対」は承句の第六字に不規則、下三連は規則通り。他の獄中詩は正統的な平韻である(後述)。

【当館の訓読】
 「明治九年二月、獄(ごく)に下(くだ)る日(ひ)天(てん)大(おお)いに雪(ゆき)」
 天(てん)に楮墨(ちょぼく)無(な)く天に舌(した)無(な)し
 人(ひと)天に代(か)わって言(い)い天に代わって筆(ひっ)す
 吾(われ)獄(ごく)に下(くだ)る時(とき)天為(ため)に泣(な)く
 萬行(まんぎょう)の涙(なみだ)は満城(まんじょう)の雪(ゆき)と化(か)す

※底本は上掲『明治回天集』。『明治立志編・五篇』(1881年)の「成島柳北君傳」、『明治英傑詩纂』(博文館1892年)の「七言絶句」にも掲載されている。成島は旧幕臣で維新後はジャーナリスト。前掲「成島柳北傳」に「明治九年二月、君(きみ)讒謗律(ざんぼうりつ)に触るるを以(もっ)て禁獄(きんごく)せらるること四月(よつき)、獄に下(くだ)るの日、天(てん)偶(たまた)ま大(おおい)に雪ふる」の記述が有る。この詩は『柳北詩鈔』(博文館1894年)や『柳北全集』(博文館1897年)には収録されなかった。1876(明治9)年の成島の獄中詩については『江戸詩人選集10成島柳北・大沼枕山』(岩波書店1990年)と『明治十家絶句・下巻』(東生書館1878年)を参照。

上掲『明治十家絶句』の下巻には成島の獄中詩が三首(平韻)、出獄詩が三首(平韻)収録されています。今月は一首だけ鑑賞してみましょう。

(参考)成島柳北「出獄詩」1876(明治9)年6月作
 霜雪飛時始出家
 ○●○○●●○
 幾旬獄裏聴晨鴉
 ◎○●●◎○○
 帰来濹上春無跡
 ◎◎●●○○●
 一逕薫風鼓子花
 ●●○◎●◎○
(前掲『明治十家絶句』下巻、『詞華集日本漢詩(8)』汲古書院1983年)

※記号の○は平声、●は仄声、◎は平仄両用。仄起で韻は下平六麻(家・鴉・花)。二四不同、二六対は不規則無し、下三連、弧平も不規則無し。平仄の定式通りで、『朝野新聞』編集者らしく模範的かつ大衆的で見事な七言絶句。

【当館の訓読】
 「獄(ごく)を出(いず)る詩(し)」
 霜雪(そうせつ)飛ぶ時(とき)始(はじめ)て家を出(い)で
 幾旬(いくじゅん)獄裏(ごくり)に晨鴉(しんあ)を聴く
 帰来(きらい)濹上(ぼくじょう)春(はる)跡(あと)無し
 一逕(いっけい)の薫風(くんぷう)鼓子花(ひるがお)

※底本は『明治十家絶句・下巻』(東生書館1878年)。訓読は同書の訓点をそのまま踏襲した。承句の「晨鴉」は明けガラス、転句の「濹」は東京の隅田川(旧宅は墨田区向島)、結句の「逕」は道、「鼓子花」は昼顔を意味する。この詩は『明治回天集』には収載されていない。柳北は2月の大雪の日に投獄(禁獄4ヵ月)され、6月に出獄した。前田愛『成島柳北』(朝日新聞出版1990年)、乾照男『成島柳北研究』(ぺりかん社2003年)を参照。

立憲改進党系の成島柳北の優れた獄中記「ごく内ばなし」(『朝野新聞』、『柳北遺稿』、『柳北全集』等)には、柳北と同じ頃に筆禍事件で鍛冶橋監獄(現在の東京駅プラットホーム付近)に投獄された28名の刑期等が記載されています。著名な民権派ジャーナリストと政治家を紹介しておきましょう。※は館長の注記。

・矢野駿男(禁獄10ヵ月、采風新聞、自由党系)
※鍛冶橋監獄で柳北と同時期に獄中詩、『明治回天集』に獄中詩所載。
・末広重恭(禁獄8ヵ月、朝野新聞、自由党系)
※同監獄で柳北と同時期に獄中詩、『雪中梅』の著者、後に衆議院議員。
・杉田定一(禁獄6ヵ月、采風新聞、自由党系)
※同監獄で柳北と同時期に獄中詩(漢詩集『血痕録』)、後に衆議院議長。
・西河通轍(禁獄3ヵ月、朝野投書、自由党系)
※後に『総房共立新聞』、『自由新聞』等の記者、『鬼城自叙伝』に漢詩。
・箕浦勝人(禁獄2ヵ月、報知新聞、立憲改進党系)
※後に衆議院議員、第1回総選挙以来連続15回当選、第2次大隈内閣逓信大臣。
・植木枝盛(禁獄2ヵ月、報知投書、自由党系)
※同監獄で柳北と同室(『植木枝盛日記 明治九年』、「出獄追記」『郵便報知新聞』1876年5月~6月)、後に高知県会議員、衆議院議員。

雑賀博愛『杉田鶉山翁』(鶉山會1928年)は、当時の鍛冶橋監獄の様子を次のように記しています。少し長くなりますが参考のために引用しておきましょう。(   )は引用者、旧仮名遣いを新仮名遣いに修正。

「筆禍に罹りて獄に下る」
 鶉山(じゅんざん)の在獄は六ヶ月であったが、此(こ)の間成島、末廣、小松原、等の先輩と談論風発し、旺(さか)んに時事を論じた。それで監獄の獄卒や小使や給仕等に至る迄、寧(むし)ろ鶉山等を尊敬し、進んで教を受けに來るというような有様で、中には書物を携えて來て不審の處(ところ)を尋ねるものすらあった。まるで学校の様な観を呈したということである。
(前掲『杉田鶉山翁』183頁)

(参考)杉田定一「出獄」1876(明治9)年8月頃作
 惨雨凄風六月閒
 ●●○◎●●◎
 何期今日得生還
 ○○○●●○○
 平生豪氣依然在
 ○○○●○○●
 又突世途幾苦艱
 ●●●○◎●○
(前掲『血痕集』)

※○は平声、●は仄声、◎は平仄両用。仄起、韻は十五刪(閒・還・艱)。二四不同、二六対不規則無し、下三連、弧平も不規則無く平仄の定式通り。

【当館の訓読】
 惨雨(さんう)凄風(せいふう)六月(むつき)の間(かん)
 何(なん)ぞ期(き)せん今日(こんにち)生還(せいかん)を得(う)るを
 平生(へいぜい)の豪気(ごうき)依然(いぜん)として在(あ)り
 又(また)世途(せいと)の幾(いく)苦艱(くかん)を突(つ)かん

※底本は杉田定一『血痕集』(漢詩集1879年)。杉田はその後二度三度と筆禍事件を起こし投獄された。「至誠一徹」「不撓不屈」の青年時代であった。雑賀博愛『杉田鶉山翁』鶉山會1928年、池内啓『杉田定一研究ノート』福井大学教育学部紀要1968年、前川幸雄『福井縣漢詩文の研究(增補改定版)』朋友書店2019年等を参照。

(以下続く)


(2023年7月)



《みんけん館掲示板》

◎8月の行事
8月 3日(木):佐久間吉太郎(きちたろう)顕彰忌
8月 5日(土):資料調査(県内)
8月11日(金):山の日
8月15日(火):「みんけん館通信第21号」投函

◎みんけん林園 Self Sown Seed System, Experimental Farm
△収穫:オクラ(豊作)、茄子(並作)、胡瓜(並作)
△植付:
△花々:夾竹桃(赤)、枝豆の花(白)、胡瓜の花(黄)、コスモス(白・赤紫・桃)、茄子の花(紫)、オクラの花(白)、百日紅(赤)、アサガオ(紫)、唐辛子の花(白)、ミニトマトの花(黄)

◎異常気象・災害・感染症
▼イラン全土でも前例のない暑さ、40度~51度。
▼宮崎県三郷町で記録的豪雨(600mm超)。
▼ハワイ諸島でハリケーンによる広域山火事。

◎みんけん館寄贈寄託資料・連絡通信コーナー
□雑誌『安曇野文芸№45』(安曇野文芸の会2022年4月1日)※新史料公開、『民権鑑嘉助面影』第九段目、仕置の場
□冊子『高知市立自由民権記念館紀要』(高知市立自由民権記念館2023年3月)※「紀要電子版」公開
□書籍『考える日本史授業5』(地歴社2023年7月10日)
□会報『秩父№215』(秩父事件研究顕彰協議会2023年7月)※高岸善吉の墓碑。
□会報『ペン 第184号』(東京町田ペンクラブ2023年7月)※【特集】足尾鉱毒事件を語り継ぐ。
□チラシ「企画展 町田のおカイコさん」(町田市立自由民権資料館2023年7月22日~9月3日)
□チラシ「高知近代史研究会第114回研究会・選挙と識字」(高知市立自由民権記念館2023年9月3日午後2時~3時半)※オンライン聴講可



特別企画「自由民権と幕末の獄中詩」解説

3月の中旬に「帯状疱疹」を発症しました。現在は点眼液、眼軟膏、便秘薬、腰痛湿布薬、降圧剤、足指水虫クリーム、歯周病対応歯磨き・歯間ブラシ、トローチ等の良薬のお世話になりながら執筆を続けています。

成島柳北「獄中雑詩」1876(明治9)年作
 監吏団欒語夜闌
 ◎●○○●●韻
 笑声落枕不堪讙
 ●○●●◎○韻
 暖爐火熾猶呼炭
 ●○●●◎○●
 知否囚人徹骨寒
 ◎●○○●●韻
(『明治十家絶句』下巻1878年)

※記号の◯は平声、●は仄声、◎は両用。仄起の七言絶句で韻は上平十四寒。平仄の「二四不同」、「二六対」、「下三連」、「弧平」は定式通り。

【当館の訓読】
 「獄中雑詩(ごくちゅうざつし)」
 監吏(かんり)団欒(だんらん)夜闌(よふけ)に語(かた)る
 笑声(わらいごえ)枕(まくら)に落(お)ちて讙(かまびす)しきに堪(た)えず
 暖炉(だんろ)火(ひ)熾(さか)んにして猶(なお)炭(すみ)を呼(よ)ぶ
 知(し)るや否(いな)や囚人(しゅうじん)の骨(ほね)に徹(てっ)して寒(さむ)きを

※底本は上掲『明治十家絶句』。成島は元将軍(13代・14代)侍講、維新後は新聞や雑誌の編集者(『朝野新聞』、『花月新誌』)。讒謗(ざんぼう)律と新聞紙条例違反で1876(明治9)年2月に東京鍛冶橋監獄に投獄された(前述)。訓読は『明治十家絶句』の訓点を踏襲し、日野達夫注『成島柳北・大沼枕山』(岩波書店1990年)を参照。

自由党系の杉田定一の漢詩集にも、1876(明治9)年2月頃の鍛冶橋監獄で、寒気に耐えて吟じた七言絶句が残っています。

杉田定一「拘留中偶吟(その二)」1876(明治9)年作
 寒氣侵肌睡不成
 ○●○○●◎韻
 廊燈影暗夜三更
 ○○●●●◎◎
 是風是雪難分得
 ●◎●●◎◎●
 臥聴蕭々蔌々聲
 ●◎○○●●韻
(上掲『血痕集』1879年)

※○は平声、●は仄声、◎は両用、仄起の七言絶句で韻は下平八庚。平仄の「二四不同」、「二六対」、「下三連」、「弧平」は定式通り。

【当館の訓読】
 「拘留偶吟(こうりゅうぐうぎん)」
 寒気(かんき)肌(はだ)を侵(おか)し睡(ねむり)を成(な)さず
 廊燈(ろうとう)影(かげ)暗(くら)し夜(よる)三更(さんこう)
 是(こ)の風(かぜ)是(こ)の雪(ゆき)分(わか)つこと得(え)難(がた)し
 臥(ふ)して聴(き)く蕭々(しょうしょう)簌々(そくそく)の声(こえ)

※訓読については水島直文『杉田鶉山(じゅんざん)翁小伝』福井豆本の会1978年を参照。杉田は6ヵ月間投獄され、1879(明治9)年9月に出獄した(前述)。杉田は後に衆議院議長、『鶉山詩鈔』等が公刊されており、詩人政治家であった。

(以下続く)


《みんけん館掲示板》

◎9月の行事
9月 1日(金):関東大震災100周年
9月 2日(土):原(高橋)亀太郎(かめたろう)顕彰忌
9月16日(土):出張講演(千葉県内)
9月23日(土):墓参
9月24日(日):南洲忌

◎みんけん林園 Self Sown Seed System, Experimental Farm
△収穫:オクラ(豊作)、唐辛子(並作)
△植付:
△花々:夾竹桃(赤)

◎異常気象・災害・感染症
▼日本全国各地で連日30℃を越える異常気象続く。
▼千葉県、茨城県、福島県等で台風13号による大雨洪水、床上浸水等の被害。
▼アフリカのリビアで大雨暴風、死者・行方不明者多数。

◎みんけん館寄贈寄託資料・連絡通信コーナー
□冊子『安形朝藏さんからの手紙 ━ 一人の千葉県民が目撃した関東大震災当日と広島原爆当日の手記』(私家版2023年7月)
□デジタル版『全国みんけん連ニュース「自由民権をひらく」№7』(全国自由民権研究顕彰連絡協議会2023年8月30日)
□チラシ「企画展 町田のおカイコさん」(町田市立自由民権資料館2023年7月22日~9月3日)
□チラシ「高知近代史研究会第114回研究会・選挙と識字」(高知市立自由民権記念館2023年9月3日午後2時~3時半)※オンライン聴講可。



特別企画「自由民権と幕末の獄中詩」解説

9月は獄中詩と「底点」(身も心も疲れ果てた女性達の集まり)に関する漢詩を鑑賞してみましょう。杉田定一の獄中詩には「柳橋」を吟じたものが一首有ります。成島柳北の著名な文学作品『柳橋新誌』は、原寸版が復刻されていて漢詩も収載されています。

杉田定一「送同囚出獄」1876(明治9)年作
 離恨如山撃不消
 ○●○○●◎韻
 鉄窓况亦雨蕭蕭
 ●○●●●○韻
 憶君今夜豪遊處
 ●○○●○○●
 不是芳原定柳橋
 ◎●○○●●韻
(『血痕集』1879年)

※記号の◯は平声、●は仄声、◎は両用。仄起の七言絶句で韻は下平二蕭(消・蕭・橋)。平仄の「二四不同」、「二六対」、「下三連」、「弧平」は原則通り。「不」が二字重出であるが許容範囲。

【当館の訓読】

 「同囚(どうしゅう)の出獄(しゅつごく)を送(おく)る」
 離恨(りこん)山(やま)の如(ごと)し撃(う)って消(き)えざる
 鉄窓(てっそう)况(いわん)や亦(また)蕭蕭(しょうしょう)たる雨においてをや
 君(きみ)を憶(おも)えば今夜(こんや)豪遊(ごうゆう)の処(ところ)
 是(これ)芳原(よしわら)にあらず柳橋(やなぎばし)に定(さだ)めん

※底本は上掲『血痕集』。杉田定一は福井県の豪農で自由党入党、後に衆議院議長。訓読は先例がないので当館独自に試みた。「同囚」が『柳橋新誌』の著者の成島柳北であるかどうかは特定できない。杉田が同書を読んでいた可能性は有ると思う。『柳橋新誌』は「吉原」の地名を「芳原」と表記している箇所がある。

※起句の「離恨」は人と別れた時の悲しみ、「撃」は胸の悲しみを叩くの意か。承句の「鉄窓」は鉄格子の付いた東京鍛冶橋監獄の窓、「雨蕭蕭」は6月の雨と解釈。成島柳北は明治9年6月11日に出獄(日野龍夫註『成島柳北・大沼枕山』岩波書店)。転句の「君」は讒謗律や新聞紙条例で投獄されたジャーナリストの仲間であるだろう。結句の「芳原」は東京の「吉原」と推定。

来月は出獄後の成島柳北が、「底点」の柳橋、新橋、吉原等の芸娼妓を吟じた漢詩を検討する予定です。雑誌『花月新誌』は全冊(明治10年1月第1号~明治17年11月第155号)が復刻されています。

(以下続く)



《みんけん館掲示板》

◎10月の行事
10月 7日(土):鴨崖忌
         :景岳忌
10月10日(火):Online展示「自由民権と幕末の獄中詩」(楽日)※江村賞受賞記念企画
10月11日(水):Digital Museum 開設
25周年※1998年10月11日(日)アップロード
10月23日(月):インフルエンザワクチン接種(館長・副館長・理事長)
10月27日(金):松陰忌

◎みんけん林園 Self Sown Seed System, Experimental Farm
△収穫:薩摩芋
△植付:
△花々:コスモス(白・薄紫・赤紫)

◎異常気象・災害・感染症
▼アフガニスタン西部で大地震、死者多数。
▼長崎県南島原市と熊本県天草市で大量の鰯の死骸。
▼メキシコの観光都市アカプルコで猛烈ハリケーン、最大風速74メートル。

◎みんけん館寄贈寄託資料・連絡通信コーナー
□新聞記事「怒る正造、転機の書簡」(東京新聞夕刊2023年9月9日)※「急キ帰宅セル諸氏ハ本日頃ハ血之池地獄ニ落ち又ツルギノ山ニ登ルノ悲ミナラン、人ノ教ヲキカズ地方ノ様子ヲシラズ研究モセズウカト鉱毒の悪地方ニ行ケバ地獄ニ行クカ如シ、其通リナリ(後略)」明治34年3月7日。
□通信『評論№228』(日本経済評論社2023年9月) ※関東大震災から100年
□スケッチ画「風車」、「水鳥」、「山岳」、「古墳」、「空港」、「夜景」、「白雲」、「旅客機」、「緑の大地」、「歌舞伎」(2023年9月)
□書籍『渋江保の民権思想-戦史思想と万国戦史の意義』(ブイツーソリューション2023年9月30日) ※渋江保は「渋江抽斎」の実子。
□チラシ「全国自由民権研究顕彰連絡協議会(全国みんけん連)2023年度総会・第4回大会」(2023年10月29日)。
□講演会案内文書「自由民権運動福島・喜多方事件とは」(喜多方歴史研究協議会2023年11月25日)※会場は喜多方市厚生会館。



収蔵資料解説「獄中詩と底点」

10月は民権家の獄中詩と「底点」(身も心も疲れ果てた女性達の集まり)について考えてみましょう。成島柳北は元々将軍侍講でしたから、「頂点」(統治権力の中枢集団)と「底点」の両方を視野に入れることができた漢詩人でした。

成島柳北「余次其韻以哭之」
 舊情欲説聴人稀
 ●○●●◎○韻
 涙滴當年舊舞衣
 ●●◎○●●韻
 借問嫦娥何處去
 ●●○○◎●●
 夢魂長向月中飛
 ◎○◎●●○韻
(『柳橋新誌』1874年)

※記号の◯は平声、●は仄声、◎は両用。起句及び結句の第二字が平声なので平起の七言絶句。韻は上平五微(稀・衣・飛)で、「次韻(じいん)」である。平仄は「二四不同」、「二六対」、「下三連不可」、「第四字弧平不可」の原則が守られている。起句と承句の「舊」が「二字重出」になるが許容範囲である。

【当館の訓読】
 「余(よ)其(そ)の韻(いん)を次(つ)いで以(もっ)て之(これ)を哭(こく)す」
 旧情(きゅうじょう)説(と)かんと欲(ほっ)して聴(き)く人(ひと)稀(まれ)なり
 涙(なみだ)は滴(したた)る当年(とうねん)の旧(きゅう)舞衣(ぶい)
 借問(しゃもん)す嫦娥(じょうが)何(いず)れの処(ところ)にか去(さ)る
 夢魂(むこん)長(なが)く月中(げっちゅう)に向(むか)って飛(と)ぶ

※底本は『柳橋新誌』(1874年刻)。成島柳北は元幕臣、維新後は朝野新聞社長で立憲改進党入党。永井荷風に「柳北仙史の柳橋新誌につきて」という論考がある(『中央公論』1927年5月)。
※訓読は塩田良平校訂『柳橋新誌』(岩波文庫1940年)と日野龍夫校注『江戸繁昌記・柳橋新誌』(岩波書店1989年)を参照。「成島柳北と名妓たち」については『森銑三著作集』続編第五巻(中央公論社1993年)を参照した。

(以下続く)



《みんけん館掲示板》

◎11月の行事
11月 7日(火):HPメンテナンス作業(午前2時~午前4時サービス停止)
11月14日(火):館長入院治療
11月23日(木):ズーム研究会(千葉県内自治体史)
11月26日(日):「みんけん館通信№22」印刷作業
11月30日(木):柳北忌 ※成島柳北は1884年11月30日病没

◎みんけん林園 Self Sown Seed System, Experimental Farm
△収穫:薩摩芋
△植付:玉葱、空豆、ニラ
△花々:コスモス(白・薄紫・赤紫)

◎異常気象・災害・感染症
▼2023年の地球は観測史上最も暖かい年になることがほぼ確定。

◎みんけん館寄贈寄託資料・連絡通信コーナー
□チラシ「全国自由民権研究顕彰連絡協議会(全国みんけん連)2023年度総会・第4回大会」(2023年10月29日)。
□講演会案内文書「自由民権運動福島・喜多方事件とは」(喜多方歴史研究協議会2023年11月25日)※会場は喜多方市厚生会館。



収蔵資料解説「漢詩と底点」

11月も漢詩と「底点」(身も心も疲れ果てた女性達の集まり)について考えてみましょう。永井芳山の弔詩を鑑賞します。

永(井)芳山「吊之詩」
 国色古今相遇稀
 ●●●○◎●韻
 多情涙盡血沾衣
 ○○●●●○韻
 夕陽人吊弧墳下
 ●○○●○◎●
 野菊香殘老蝶飛
 ●●○○●●韻
(『柳橋新誌』1874年)

※記号の◯は平声、●は仄声、◎は両用。起句及び結句の第二字が仄声なので仄起の七言絶句、韻は上平五微(稀・衣・飛)。平仄は「二四不同」、「二六対」、「下三連不可」、「第四字弧平不可」の原則が厳守されている。

【当館の訓読】
 「之(これ)を吊(ちょう)する詩」
 国色(こくしょく)古今(ここん)相(あい)遇(あ)うこと稀(まれ)なり
 多情(たじょう)涙(なみだ)尽(つ)きて血(ち)衣(ころも)を沾(うるお)す
 夕陽(せきよう)人(ひと)は吊(ちょう)す弧墳(こふん)の下(もと)
 野菊(のぎく)香(こう)残(のこ)して老蝶(ろうちょう)飛(と)ぶ

※訓読は塩田良平校訂『柳橋新誌』(岩波文庫1940年)と日野龍夫校注『江戸繁昌記・柳橋新誌』(岩波書店1989年)を参照。

(以下続く)



《みんけん館掲示板》

◎12月の行事
12月 1日(金):資料館敷地内草刈り
12月13日(水):兆民忌
12月15日(金):「みんけん館通信№22」発送
12月28日(木):楓江忌
12月29日(金):看雨忌
12月30日(土):館内煤払い

◎みんけん林園 Self Sown Seed System, Experimental Farm
△収穫:里芋(並作)、大豆(不作)
△植付:高菜、ブロッコリー
△花々:蒲公英(黄)、山茶花(桃)

◎異常気象・災害・感染症
▼フィリピンのミンダナオ島で大地震、津波発生。
▼黒海沿岸で百年に一度の猛吹雪。
▼アイスランドで溶岩噴出

◎みんけん館寄贈寄託資料・連絡通信コーナー
□会報『秩父№217』(秩父事件研究顕彰協議会2023年11月)※石田造酒八の墓碑
□画像「桜井静の生家」5点(2023年11月)※香取郡多古町の「爲右衛門」(屋号)
□書籍『俳句500年 名句をよむ』(コールサック社2023年12月8日)
□会報『全国みんけん連ニュース№8』デジタル版(全国自由民権研究顕彰連絡協議会2023年12月10日)
□冊子『思文閣古書資料目録第280号』(思文閣出版古書部2023年12月)



収蔵資料解説「漢詩と民権運動」

11月中旬に鴨川市内の海岸線に有る総合病院に1週間程入院しました(老人病)。全身麻酔の手術後、初冬の荒波をぼんやりと眺めながら病床で久し振りに読んだ漢詩は、幸徳秋水の七言絶句(伝獄中作)でした。

幸徳秋水「獄中雜唫之一」1911年1月18日作
 區々成敗且休論
 ○○○●◎○韻
 千古惟應意氣存
 ○●○◎●●韻
 如是而生如是死
 ◎●○○◎●●
 罪人又覺布衣尊
 ●○●●●◎韻
(中島及『幸徳秋水漢詩評釈』高知市民図書館1978年)

※記号の◯は平声、●は仄声、◎は両用。起句及び結句の第二字が平声なので平起の七言絶句、韻は上平十三元(論・存・尊)。平仄は「二四不同」、「二六対」、「下三連不可」、「第四字弧平不可」の原則が厳守されており伝統的な詩風。平仄記号については上掲『平仄字典新版』を参照した。

【訓読】
 「獄中(ごくちゅう)雜唫(ざつぎん)之(の)一(いち)
 区々(くく)たる成敗は且(しばら)く論ずるを休(や)めよ
 千古(せんこ)惟(た)だまさに意気を存(そん)すべし
 是(かく)の如くして生れ是(かく)の如く死す
 罪人また布衣(ほい)の尊きを覚(おぼ)う

※訓読は『幸徳秋水全集第八巻』(明治文献1972年)と中島及『幸徳秋水漢詩評釈』(高知市民図書館1978年)を参照。幸徳秋水『兆民先生・兆民先生行状記』(岩波文庫1960年56頁)には「塵区(じんく)」、「雲区(うんく)」、「庭区(ていく)」の詩語が散見される。

【当館の現代口語風訓読】
 区々(くく)の成敗(せいはい)は且(しばら)く論(ろん)じるのを休(や)めないか
 千古(せんこ)も惟(た)だ応(まさ)に意気(いき)は在(あ)るはず
 是(か)くの如(ごと)くに生(い)き、是(か)くの如(ごと)く死(し)ぬ
 罪人(ざいにん)は又(ふたた)び覚(さと)る、布衣(ほい)の尊(とうと)さを

※起句の「区々」は取るに足りないこと、「成敗」は成功と失敗。承句の「千古」は千年の後、「意気」は心意気。結句の「罪人」は死刑判決の幸徳自身、「布衣」は庶民の衣服だが、転じて人民大衆のことか。現代風訓読については上掲『唐詩概説』(岩波文庫2005年)の「唐詩の助字」を参照した。

(以下続く)